「らせん」と出会いなおす──暮らしを再生するための「福祉」と「言葉」

「あぶないから走っちゃだめ」「怪我するからさわらないでね」
小さい頃、繰り返し耳にしてきた言葉たち。私たちはこうして、目に見えない危なさから身を守り、「正しさ」に慣れていきました。けれどそれは、本来あったはずの感情や衝動に蓋をし、ひとりがひとりでいるために欠かせない喜びを、少しずつ手放していくことでもあったのかもしれません。
『らせんの日々』(ぼくみん出版会)に登場するのは、『私の生活改善運動』などの著作で知られる作家・安達茉莉子さんが、取材を通し出会った京都府・城陽市に位置する社会福祉法人〈南山城学園〉で働く職員の方々。実際にお会いしたこともなければ、お顔も声も知りません。しかし、紙にのせられたそれぞれの言葉をたどっていくうちに、「この人はどんなふうに笑うのだろう」「どんな道を歩んできたのだろう」と、知りたい気持ちが自然と芽生えてきます。
人を大事にするということ。目の前にいる一人と丁寧に向き合うということ。誰かを知ろうとすることは、自分自身の揺らぎを包容し、見つめなおすということにも繋がる。そうして見えてくるのは、これまで自分が身を置いてきた社会は、ほんの一部に過ぎなかったということ。安達さんが「最先端」として注視されている「当たり前」に何度も出会いなおしていくように、本書を捲るたび、驚きと静かな安堵が胸に満ちていきます。
このたび『らせんの日々』の出版を手掛けた「ぼくみん出版会」の瀬川航岸さん、そして南山城学園職員であり、本書にも登場されている佐々木明子さんをお迎えし、私たちの暮らしに必然的に根づく「福祉」と「言葉」についてお話をうかがいます。
生きやすさを共に考え、答えのない問いを共有する。互いの存在を肯定し、やさしさを再生していく。そうだった。人間は、もっとのびやかに生きていける。あなたも、私も。
この本がある世でよかったなとしみじみ感じます。『らせんの日々』に出会った方も、まだ読んでいない方も。この時間が、さまざまな状況を抱える誰かにとっての、ささやかな灯火となれば幸いです。
【登壇者プロフィール】
佐々木明子(ささき・あきこ)
社会福祉法人南山城学園所属。法人本部事務局企画広報課。課長補佐。学園内では主に広報、研修、実習調整などを担当。
瀬川航岸(せがわ・こうき)
1999年生まれ、滋賀県東近江市出身。立命館大学経営学部卒業後、ぼくみんのコーディネーターとして、滋賀県高島市の「TAKASHIMA BASE」や、京都市北区「船岡山オープンパーク」の運営など、地域にひらかれた場づくりに取り組む。2025年3月に立ち上がった「ぼくみん出版会」の主担当として、本を届け、活動や関係をネットワークする。
他のイベントを見る
-
2025年04月26日(土)(19:00〜)書くこと/読むことで救われるのか ──「好き」のなかに光を求める登壇者:岡本真帆、大森皓太
-
2025年03月09日(日)(18:00〜)日常の思想を読み解く──繰り返す時間をどう捉えるか登壇者:
-
2025年02月24日(月)(16:00〜)『酒を主食とする人々』刊行記念「幻の酒飲み民族は実在した!」登壇者:高野秀行
-
2025年02月08日(土)(16:00〜)『時の辞典』刊行記念サイン会登壇者:岡野大嗣
-
2025年01月25日(土)(18:30〜)〈私〉を旅するレッスン——日常と観光のあいだ登壇者:田中真知
-
2025年01月18日(土)(18:00〜)哲学によって、日常の光景がどう変わるのか登壇者:田村正資、谷川嘉浩
-
2024年12月02日(月)(12:30〜)歌人と歩く鴨川吟行登壇者:堀静香
-
2024年10月14日(月)(18:30〜)自分の暮らしを美学する──日常のなかに哲学はあるか登壇者:青田麻未、谷川嘉浩
-
2024年09月29日(日)(18:00〜)「どうして本屋を?」「なんでなんでしょうね」──二拠点生活者の健かな生存戦略登壇者:あかしゆか、大森皓太
-
2024年09月16日(月)(18:00〜)エスノグラフィはおもしろい ──血の通った文章を書く”あるひとつの”方法登壇者:石岡丈昇、岸政彦