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ご挨拶

2024.05.01

夏目漱石の『三四郎』は、主人公の小川三四郎が進学のため熊本から東京へと上京する場面から始まります。初めて東京を訪れた三四郎は、その活動の活発さ、つまり物事の変化の速さに驚き、今まで学んだことが役に立つのかと不安を覚えます。この場面を漱石は次のように書いています。

「世界はかように動揺する。自分はこの動揺を見ている。けれどもそれに加わる事は出来ない。自分の世界と、現実の世界は一つ平面に並んでおりながら、どこも接触していない。そうして現実の世界は、かように動揺して、自分を置き去りにして行ってしまう。甚だ不安である」
いきなり『三四郎』を持ち出したのは、この文章が現在も非常にリアリティをもっていると感じるからです。日露戦争後の日本を描いた『三四郎』から一世紀以上経った2024年。その変化の激しさは当時の比ではなく、相次いで起こる地球規模の動揺を目前に立ちすくんでしまいます。はたしてどう生きればいいのだろうと。

第二次世界大戦後、三四郎と同じく「迷子(stray sheep)」となった一人に須賀敦子(1929-1998)という文筆家がいます。大学卒業後に人生の岐路に立ち、思い悩んでいた須賀を救ったのはある作家の言葉でした。
「自分がこうと思って歩きはじめた道が、ふいに壁につきあたって先が見えなくなるたびに私はサンテグジュペリを思い出し、これを羅針盤のようにして、自分がいま立っている地点を確かめた」

先が見渡せない不安な時代のなかで、羅針盤となるような言葉は躓きそうなときに支えとなり、一歩を踏み出す勇気をくれます。「どうして本を売るのだろう」と自問したとき、思い浮かぶのはこの羅針盤としての本の力です。鴨葱書店が誰かにとって羅針盤のような言葉に出逢う場所となることを願い、開店します。

店主 大森皓太


▼限定ノベルティプレゼント

購入金額に応じて鴨葱書店オリジナルのノベルティをプレゼントしております。

3,000円以上:冊子
5,000円以上:手拭い
10,000円以上:トートバック

※冊子は今回のために堀静香さん、浅生鴨さんに書き下ろしていただいたエッセイです
※それぞれ無くなり次第終了いたします