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2025年01月18日(土)

哲学によって、日常の光景がどう変わるのか

登壇者:田村正資、谷川嘉浩

8月に刊行された、田村正資『問いが世界をつくりだす:メルロ゠ポンティ 曖昧な世界の存在論』(青土社)には、知覚の変化という身近な体験に基づく文章が散りばめられている。

 

風邪をひいて高熱に苦しむときは、普段なら馴染みあるフライパンや洗濯機が疎遠に感じられ、自分とは無関係のものとして遠ざかる。「そうかと思えば、私たちはスキルを獲得したり道具を扱えるようになったりすることで、日常的な光景がすっかり違って見えるようになることがある」(p.168)。

 

たしかに、道具やスキルの獲得は、私たちの知覚や認識を劇的に再編成する。自転車に乗れるようになったら、土地に対する遠近の感覚は大幅に変わるし、ブックデザインのスキルを身につけたら、フォントや文字組み、レイアウトの整合性や、読書体験への効果を自然と意識してしまう。

 

メルロ゠ポンティを使えば、この種の知覚変化をうまく議論できるようになるのだが、それなら、「哲学」というスキルやツールを使えるようになったとき、私たちの「日常的な光景」は、どんな風に「違って見えるようになる」のだろうか。

 

実際、田村さんや私(谷川)は、メルロ゠ポンティやプラグマティズムなどの哲学を学んできたが、それによって私たち自身の知覚はどう再編成されたのだろうか。私たちの体験は、哲学を学ぶことで世界がどんな風に違って見えるかを考える上で有用なサンプルになるだろう。

 

対談では、株式会社baton(QuizKnock)で新規事業開発に携わりながら、哲学の研究を進める田村さん自身のキャリアを踏まえつつ、彼にとって「哲学」や「メルロ゠ポンティ」が何であり、それが彼の日常の景色をどう変えたのかを掘り下げていきたい。

 

田村さんと私とでは、哲学する際に従う規範が微妙に違っている。私の学位論文は、かなり発散的で、登場する人物や文献が多く、批評的なスタイルに近いのに対して、田村さんの学位論文は、一つの主題を順次深めていくスタイルで、参照する文献の範囲も限定的だ。

 

そうした規範の違いは、日常的な景色の違いにつながっているかもしれない。2人で語り合い、立場を交差させることで、哲学を身につけることで景色がどんな風に変わるのかということを、対話の中で一緒に考えていきたいと思っている。
(文:谷川嘉浩)

 

【登壇者プロフィール】
田村正資(たむら・ただし)
1992年生まれ。哲学研究者/新規事業開発。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論分野博士課程修了。博士(学術)。専門は、現象学(メルロ゠ポンティ)と知覚の哲学。主な著書に、メルロ゠ポンティ研究の成果をまとめた『問いが世界をつくりだす』がある。現在は哲学研究を続けながら、株式会社baton(QuizKnock)の事業にも参画。「クイズが人生と交錯するとき」(『群像』2024年8月号)、「予感を飼いならす:競技クイズの現象学試論」(『ユリイカ』2020年7月号)などの文章もある。

谷川 嘉浩(たにがわ・よしひろ)
1990年生まれ。京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。著書に、『スマホ時代の哲学:失われた孤独をめぐる冒険』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『鶴見俊輔の言葉と倫理:想像力、大衆文化、プラグマティズム』(人文書院)、『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(筑摩書房)、『信仰と想像力の哲学:ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』(勁草書房)、『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(共著、さくら舎)など。翻訳に、『質的社会調査のジレンマ』(マーティン・ハマーズリー著、勁草書房)など。

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