作って終わらない本づくり──作り手と読み手の関係性を問いなおす
作品はどの時点で「完成した」と言えるでしょうか。
フランスの芸術家マルセル・デュシャンは、「絵画は鑑賞者がいてはじめて成り立つものだ」と書き残しました。ギリシャの映画監督テオ・アンゲロプロスもまた「映画や詩は鑑賞者によって完成する」と述べています。
では「本」の場合はどうでしょう。
一般的に想像するのは、「製本が終わった瞬間」や「刊行のタイミング」です。しかし、冒頭で引用した二人の表現者の視点を借りてみると、本も「読者」が関わることによってはじめて完成する側面があると言えるかもしれません。つまり、作った後や刊行した後にも「本づくり」が進行しているということです。
今回対談をしていただく二人の作り手は、既存の出版の「その先」を見据え、読者を巻き込みながら新しい本づくりの形を探求しています。一人は、京都が拠点の出版社・出雲路本製作所の代表を務める中井きいこさん。編集に携わった本をもとに地域とデザインの学校「LIVE DESIGN School」を運営し、数百名の参加者と学びの場を作り続けています。もう一人は『26歳計画』などのタイトルを個人で制作・出版している椋本湧也さん。出版した本をもとに「本の音楽会」やZINEの制作ワークショップを行うほか、今年刊行された終戦の日の日記集『日常をうたう』では、2024年8月15日の日記を読者から募集するキャンペーンを展開しています。
京都を拠点に活動を始めた二人に共通するのは、出版や本は目的ではないということ。表題に掲げた「作って終わらない本づくり」は、「読んで終わらない読書」を読み手にうながすことと不可分です。それは「作り手(書き手)」と「読み手」の関係性を問いなおすことに他なりません。そうした「出版」の拡張・再定義を通して、同世代の二人は何をめざしているのでしょうか。それぞれの視点から自由に語っていただきます。本づくりや出版に興味がある方はもちろん、受け手を巻き込む企画や場づくりに関心がある方もぜひご参加ください。
【登壇者プロフィール】
中井きいこ(なかい・きいこ)
1993年東京生まれ。日本や台湾での建築都市史研究やフィールドワークに明け暮れ、その後学芸出版社に入社。2022年の暮れに京都で(株)出雲路本制作所を立ち上げる。現在はいくつかの本をじっくり仕込みながら、各地の編集プロジェクトに参与しつつ、現代における本の役割を模索中。地域とデザインの学校「LIVE DESIGN School」運営局。
椋本湧也(むくもと・ゆうや)
1994年東京生まれ。大学時代に見田宗介・ベンヤミン・寺山修司に出会いつよい影響を受ける。卒業後、家具メーカーと出版社での勤めを経て、現在はWebメディアと書籍を中心に編集・執筆・出版を行う。自著に『26歳計画』『それでも変わらないもの』『日常をうたう〈8月15日の日記集〉』。先月京都に移住しました。
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