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2024年10月14日(月)

自分の暮らしを美学する──日常のなかに哲学はあるか

登壇者:青田麻未、谷川嘉浩

SNSを開き、画面に指を滑らせる時間に、純粋な楽しさを感じなくなって久しくなりました。楽しさや役立つ情報以上に、陰鬱になったり、心ないことを言われたり、言ったり、嫉妬したり、複雑な思いがしたり……どうにも疲れる時代です。スマホアプリは、ユーザーの注意を分散することで、「楽しいけどダルい酩酊状態」を生み出します。

 

『スマホ時代の哲学』では、これを「快楽的なダルさ」と呼びました。そういう酩酊にも似た状態に身を置くことで、労働や人間関係の疲労を誤魔化しているのです。そこで私が提案したのは、気を散らす「快楽的なダルさ」に楽しむ習慣を、何かを夢中になって楽しむ「趣味」的な習慣へと作り替えることができないかということでした。

 

美学研究者の青田麻未さんは、『「ふつうの暮らし」を美学する:家から考える「日常美学」入門』(光文社新書)で、「日常美学」という新しい学問ジャンルを紹介していますが、この本で彼女がフォーカスを当てるのも、まさにスマホを使う時間を含む、家での日常です。日常美学は、家具、片付けや料理、部屋のレイアウト、近所の散歩のような、日々の暮らしの中にある美的な性質や感覚、活動に注目し、そのあり方を理論化しようとするものです。

 

私が暮らしをスマホに乗っ取られずに済む方法について、哲学を通して考えたとすれば、青田さんは暮らしそのものを哲学の議論として扱う実演をして見せたと整理できるかもしれません。

 

今回は、同時代の哲学者が書いた、『スマホ時代の哲学』と『「ふつうの暮らし」を美学する』という二つの本を通して、生活や人生という、身近すぎて掘り下げられない事柄をじっくり考察する時間を過ごしてみたいと思います。

 

なお、8月22日に行われた「暮らしの中にある美学:日常と哲学の関係を問う」に続き、二度目の対談です。テンポよく会話が噛み合っていく二人の対話をもっと味わいたい方は、過去回のアーカイブもぜひご覧ください。(文:谷川嘉浩)

 

*青田麻未×谷川嘉浩「暮らしの中にある美学──日常と哲学の関係を問う」(@UNITÉ、8月22日)
https://unite-books.shop/items/668f644092c0910269e3fb7d

 

【登壇者プロフィール】
青田麻未(あおた・まみ)
専門は環境美学・日常美学。1989年生まれ。群馬県立女子大学文学部美学美術史学科講師。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得大学、博士(文学)。著書に『環境を批評する 英米系環境美学の展開』(春風社)、『「ふつうの暮らし」を美学する 家から考える「日常美学」入門』(光文社新書)、『アイドル・スタティーズ 研究のための視点、問い、方法』(共著、明石書店)など。

 

谷川 嘉浩(たにがわ・よしひろ)
哲学者。1990年生まれ。京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。著書に、『スマホ時代の哲学:失われた孤独をめぐる冒険』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『鶴見俊輔の言葉と倫理:想像力、大衆文化、プラグマティズム』(人文書院)、『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(筑摩書房)、『信仰と想像力の哲学:ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』(勁草書房)、『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(さくら舎)など。翻訳に、マーティン・ハマーズリー『質的社会調査のジレンマ』(勁草書房)など。

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