
日常は繰り返しに満ちています。起きたら職場や学校に行くか、家の中で必要な仕事や作業に取り組む。ひと段落したら、自由に使える余暇の時間。テレビかNetflixをみて、疲れた日は少し贅沢な食事、眠くなったら布団に入る。明日も明後日もそんな日だ。たぶん、来年や再来年も。
こういう「いつもの」行為の連鎖でできているからこそ、日常は安定した馴染み深いものとして立ち現れる。毎日いつも通りが通用しない、新たに考えなければならないのは、きっとストレスを感じることだろう。 しかし、そのいつも通り、つまり「同じことの繰り返し」が急に空虚に感じられたり、これからもずっと同じであることが堪えがたく思われることもあるはずだ。変わらない毎日の安定性は、変えがたい日々の窮屈感でもある。
書き割りの平板な景色の中を生きているように感じられるのが苦しくて、思い立って自分探しを始めたり、自分の生き方を変えようと苦闘したりする。中年の危機をはじめとして、こうした日常の閉塞感は、文学やその他のフィクションでも繰り返し取り扱われてきた。
今回のイベントでは、『物語のカギ』の著者であり、物語の読み解きをナビゲートすることに長けた渡辺祐真さんを招いて、反復に満ちた日常について話します。 その退屈や閉塞を、あるいは愛すべき繰り返しを、これまでの物語は、そして渡辺さん自身は、どう描いてきたのでしょうか。個人的な体験の話も交えながら、日常の秘密に迫っていければと思います。 (文:谷川嘉浩)
【登壇者プロフィール】
渡辺 祐真(わたなべ・すけざね) 1992年生まれ。東京都出身。作家、書評家、書評系YouTuber、ゲームクリエイター。情報経営イノベーション専門職大学非常勤講師(日本文化)。 毎日新聞「文芸時評」、共同通信社「見聞録」担当。TBSラジオ「こねくと」、「文化系トークラジオLife」レギュラー。著書に『物語のカギ』、編著に『みんなで読む源氏物語』、『あとがきはまだ 俵万智選歌集』。共著に『吉田健一に就て』、『左川ちか モダニズム詩の明星』など。
谷川 嘉浩(たにがわ・よしひろ) 哲学者。1990年。京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。著書に、『スマホ時代の哲学:失われた孤独をめぐる冒険』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『鶴見俊輔の言葉と倫理:想像力、大衆文化、プラグマティズム』(人文書院)、『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(筑摩書房)、『信仰と想像力の哲学:ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』(勁草書房)、『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(さくら舎)など。翻訳に、マーティン・ハマーズリー『質的社会調査のジレンマ』(勁草書房)など。
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