
言語化圧が強まっていますね。自分の考えや気持ちを言葉にできることはたしかに素晴らしいことで、自分自身もそうなれるといいなと思います。しかし、一方で言葉にしてしまうと損なわれてしまうもの、言葉では掬いきれないものもたしかにあります。
以前開催した岡本真帆さんの『落雷と祝福』(朝日新聞出版)の刊行記念トークイベントで、岡本さんが「無理に言語化する必要はないと思います」と仰っていたのが印象的で、私自身が知らず知らずに「言葉化」の流れに乗ってしまっていることに気がつきました。
どうしてこんなに「言葉」に偏重してしまっているのでしょうね。さみしいから、と私なら答えたくなります。だれかと繋がりたい、自分の存在を認めてもらいたい。そんな素朴で純粋な想いが表れてきます。そもそも言葉を交わすという経験が希薄なのかもしれません。
渡辺祐真さんと宮田愛萌さんの往復書簡『晴れ姿の言葉たち』(文藝春秋)を読んでいると、「やっぱり言葉っていいなぁ」という感想をもちます。言葉のキャッチボールならぬドッジボールが成立していて、見ているとワクワクと楽しくなります。
誰かと言葉を交わすときは、少しよそ行きの言葉遣いになります。「言葉の解像度」を少しチューニングすると言い換えてもいいかもしれません。解像度が低すぎるとコミュニケーションは続いていかないと思いますが、高すぎてもうまくいかないような気がします。
「解像度を高めて」「言語化」することが必要というわけではないとしたら、その塩梅は? いやいや、本当にコミュニケーションって難しいですね。(とまとまりがなく解像度の粗い告知文を書いています。)
今回の登壇者の書評家の渡辺さんと歌人の岡本さんはそれぞれの解像度をもってらっしゃるんだろうなと勝手に想像します。見て聞いて読んで感じたことを言葉にすることを生業とするお二人はどのようにチューニングしているのか(あるいはできないのか)。
「言語化」の流れから一度立ち止まって、こぼれ落ちそうな言葉未満のものの輝きを捉える時間になればと思っています。
【登壇者プロフィール】
渡辺祐真/スケザネ(わたなべ・すけざね)
1992年生まれ。東京都出身。書評家・文筆家。東京のゲーム会社でシナリオライターとして勤務する傍ら、2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。毎日新聞文芸時評担当(2022年4月~)。編著に『季刊アンソロジスト』(田畑書店)など。著書に『物語のカギ』(笠間書院)、共著多数。今年6月に『晴れ姿の言葉たち』(文藝春秋、宮田愛萌との共著)を刊行。
岡本真帆(おかもと・まほ)
1989年生まれ。 高知県、四万十川のほとりで育つ。 2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』(ナナロク社)を、2024年に第二歌集 『あかるい花束』を刊行。今年4月に朝日新聞出版より『落雷と祝福』を刊行。
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