
このイベントは移動の産物である。去る日、都内某所でイベントが行われていた。終了間際に会場に到着し、登壇者のお一人の伊藤将人さんの締めのコメントを聞いて、その理路整然とした様に「報道ステーションみたいや」と感心していた。イベント終了後なぜか打ち上げに参加することになった。持ち合わせているイベントの感想は「最後、報道ステーションみたいでしたね」だけである。しかし、コミュニケーション能力は高い方なので、打ち上げにもすんなり溶け込んだ。
ところで、伊藤さんの『移動と階級』(講談社)にはとても関心があって、興味深いテーマだなと思っていた。移動をしている人の方が、階級は高そうだという直感は働くが、「いやでもまてよ、自分は物理的にかなり移動している方だと思うけどめっちゃ低所得層だよな」と思い直す。聞けば、イベントも移動礼賛というわけではなく移動の負の側面にもフォーカスをあてられていたようだ。果たして、「移動」と「階級」にはどんな関係があるのだろうか俄然気になってくる。
「伊藤さん今度イベントしましょうよ」
酔いが回ると口が軽くなる。
「移動と読書みたいなテーマでどうですか」
「面白そうですね、ぜひぜひ」と伊藤さん。ものの5分くらいでイベントが決まる。しかし、酔いも醒めて冷静になると「移動と読書ってなに?」と頭をもたげる。「昔は移動時間は本を読んでいたけれど、今はスマホに取って代わられた的な話か…?」と考えてみるも、いまいちピンとこないし10分くらい話したらネタがつきそうだ。そこでこのタイトルである。
「本はAmazonで買っても、本屋で買っても同じなのか」
ちなみに断っておくが、Amazon否定論者ではまったくない。むしろAmazon様様で、Amazonのおかげで本屋がない地域にも本が届いていることに感謝している。ここにも「移動と階級」の一つの側面はあり、本というモノの可動性が高くなったことにより、文化資本の差が少なからず埋められているというのは事実だろう。
その上で、個人的な体感として、Amazonでポチる時なんだかもやっとするのだ。可動性は高まっているのに、豊かになっているような気がしないというか、便利さと引き換えになにかを失っているような気がする。その何かはコミュニケーションではないか、と仮説を立ててみる。
「移動とコミュニケーション」
これはもっと面白そうなテーマじゃないでしょうか、伊藤さん。打ち上げの席で、編集者の方が「このまえ著者の方に会いに高知まで行ったら、「高知まで訪ねてきた編集者は初めてです」と喜ばれた」という話をされていた。リモートでのミーティングが普及したから、高まる移動の価値。可動性が高まることですれ違うコミュニケーション。あ、結局は読書の話になりそうですね。話題がどこへ移ろうのか、楽しみにしています。皆さんもぜひご参加ください。
【登壇者プロフィール】
伊藤将人(いとう・まさと)
1996年生まれ。長野県出身。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員・講師。2019年長野大学環境ツーリズム学部卒業、2024年一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。戦後日本における地方移住政策史の研究で博士号を取得(社会学、一橋大学)。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、NTT東日本地域循環型ミライ研究所客員研究員。地方移住や関係人口、観光など地域を超える人の移動に関する研究や、持続可能なまちづくりのための研究・実践に長年携わる。著書に『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(学芸出版社)がある。
大森皓太(おおもり・こうた)
1995年兵庫県生まれ。UNITÉ/鴨葱書店店主。毎日一万歩。
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